AIによる電力需要の増加は、これまで「発電と送電が足りない」という供給不足の問題として語られてきました。しかし2026年6月から7月にかけて米国と日本で具体化した制度変更が扱っているのは、電力量の不足そのものではありません。限られた接続をどの需要家にどの順番で割り当て、その費用を誰に負わせるかという配分の問題です。
結論を先に述べます。大口の電力需要家にとって、立地を決める変数は「そこに電気があるか」から「その待ち行列に並べるか、いつ順番が来るか、系統増強の費用とリスクを引き受けられるか」へ移りつつあります。
そしてこの待ち行列に並んでいるのは、データセンターだけではありません。電炉、水素還元製鉄、化学、電池といった大口電力を要する重工業の新設計画も、同じ列にいます。AIインフラをめぐる接続制度の設計は、そのまま製造業の立地条件の設計になります。
これは伊但馬商事の仮説であり、確立した事実ではありません。以下、確認できた事実と、そこから導く解釈と、仮説とを区別して述べます。
何が起きているのか——確認できた事実
米国:規制当局が接続約款そのものを俎上に載せた
米国連邦エネルギー規制委員会(Federal Energy Regulatory Commission、FERC)は2026年6月18日、連邦電力法(Federal Power Act)第206条に基づき、管轄下の6つの地域送電機関(RTO)・独立系統運用機関(ISO)とその送電事業者に対して、**show cause order(理由開示命令)**を発出しました。ドケット番号と対象は、EL26-67がPJM、EL26-68がSPP、EL26-69がNYISO、EL26-70がMISO、EL26-71がCAISO、EL26-72がISO-NEです。
これは最終規則ではありません。既存の託送約款(OATT)がデータセンターなど大口需要の接続と利用の実態を織り込んでおらず「不当・不合理であるように見える」というFERCの暫定的判断に基づいて、当事者に釈明または是正提案を求める手続の開始です。この区別は以下の議論にとって重要なので、先に置いておきます。
FERCが是正または正当化を求めた約款条項は、次の5分野にわたります。
- 大口需要向け送電サービスの申込・検討手続と、接続後の運用要件
- 系統増強費用の透明性と費用転嫁の防止(標準様式の費用回収契約を含む)
- 専用の併設電源(co-location)で供給される大口需要に適用する料金・条件
- 系統の使用を条件付きで調整できる柔軟な大口需要に向けた、新しい送電サービス
- 近接・隣接する大口需要へ供給しようとする発電事業者向けの送電サービス規定
FERCが示した「大口需要(large load)」の定義は、単一サイトに立地し、ピーク負荷およそ50MW規模で送電系統に接続し、co-location取極めの一部ではない商業・産業需要家です。
ここで2点を区別しておきます。第一に、これはFERCが提案した定義であって、確定した適用範囲ではありません。RTO/ISOは自地域の事情に応じた別定義を提案でき(Rocky Mountain Institute「RTOs/ISOs may use FERC's suggested definition of large load in their updated tariffs or develop their own definitions that satisfy FERC's concerns」)、現にSPPについては、69kV以下で接続する10MW超、または69kV超で接続する50MW超の新設設備を対象とする独自定義(high impact large load)が既にFERCに受理されています。
第二に、閾値の表記が解説の間で割れています。Orrickは「at least 50 MW」「at least 69 kV」(50MW以上・69kV以上)とし、Rocky Mountain Instituteは「over 50 MW」「above 69 kV」(50MW超・69kV超)としています。FERC命令の原文を照合できていないため、本稿ではいずれの数値も確定したものとして扱いません。
内容面で最も重要なのは、FERCがRTO/ISO・送電事業者・需要家の三者による標準様式の費用回収契約を求め、その規模を当該大口需要に供給するために要求される送電サービス量(MW)に基づかせるとした点です。目的は、系統増強に要する費用とリスクを大口需要家自身に負わせ、既存の需要家へ転嫁されることを防ぐことにあります。
ただし、FERCが最低拠出額の比率や信用補完の水準といった具体的な数式を定めたわけではありません。定めたのは費用とリスクの帰属原則であって、金額ではありません。
手続の期限は、命令から30日以内に電源の十分性に関する情報報告、45日以内に手続停止(abeyance)の申立て、60日以内(2026年8月17日)に約款の正当化または変更提案の提出です。
米国:州が自家発電を含めて課税を始めた
バージニア州は2026年7月1日から、データセンターが消費する電力に対し1kWhあたり0.011ドルの消費税を課しました。州議会が2026年6月22日に予算を可決し、Abigail Spanberger知事が6月30日に署名、施行日の前日に成立しています。根拠は2026年特別会期第1のH.B.30、Item 3-5.24です。
制度設計として注目すべき点が3つあります。
- 課税対象は電力会社からの供給分に限らず、自家発電による電力も含みます。太陽光・風力の自家発電にも除外規定はありません。
- 対象は電力および冷却の容量が1MW以上のデータセンターです。インターネット接続や通信サービスの提供を主目的とする施設は除かれます。
- 年間徴収額が6億ドルを超えた分は、2027年7月1日以降、事業者の納付比率に応じて按分還付されます。延長がなければ2028年6月30日に失効する、2年間の時限措置です。
日本:効率基準と、接続申込を土台にした需要見通し
日本では、省エネ・非化石転換法に基づき、データセンター業に効率基準が導入されました。資源エネルギー庁 省エネルギー課の資料「データセンターの効率化に向けた制度面での対応」(2025年6月9日)は、新規制度案として2029年度以降の新設データセンターは稼働して2年経過後はPUE=1.3以下とすると示しています。あわせて既存のベンチマーク制度では、2030年度に事業者平均PUE=1.4以下という目標が置かれています。PUE(Power Usage Effectiveness)とは、データセンター全体の消費電力をサーバなどICT機器の消費電力で割った値で、1.0に近いほど付帯設備の効率が高いことを意味します。
なお、上記は2025年6月9日時点の制度案として示された数値です。2026年4月10日策定のガイドラインの原文PDFは取得できていませんが、二次情報の範囲では確定版でもPUE1.3・2029年度以降の新設・稼働2年経過後という条件は維持されているとみられます。本稿では案の段階の値として扱います。
需要側を見ます。電力広域的運営推進機関(OCCTO)は毎年度、一般送配電事業者の想定を取りまとめた「全国及び供給区域ごとの需要想定」を公表しており、そのなかでデータセンター・半導体工場の新増設分を個別計上しています。個別計上値は需要の総量ではなく、回帰分析による通常の需要想定には反映されない新増設分を、基準年度に上乗せする増加分です。
最新版(2026年度供給計画向け、2026年1月21日公表)では、データセンター・半導体工場の個別計上値の合計は2026年度の83万kWから2035年度に762万kWへ、需要電力量は67億kWhから568億kWhへ積み上がります。2034年度断面ではデータセンター単独で615万kW・460億kWhです。
ここで版の差に触れておきます。ひとつ前の版(2025年1月22日公表)では、データセンター単独の個別計上値は2025年度47万kWから2034年度616万kWへ、電力量は30億kWhから440億kWhへ、半導体工場と合わせた2034年度の最大需要電力は715万kWとされていました。最新版でOCCTOは「データセンターについて、事業者による新増設計画の見直しや既設データセンターの実績傾向を踏まえ、それらを想定に反映したことにより、2033年度までは前回想定を下回る推移となっている」と述べ、2034年度以降は前回想定を上回る見通しとしています。**近年度は下方修正され、需要の伸びは後年度へ後ろ倒しになりました。**接続の列は、伸び続けるだけの列ではありません。
この見通しについて本稿が重視するのは、増加幅そのものよりも作られ方です。OCCTOは新増設の蓋然性を「需要設備系統アクセス業務に沿って系統申込状況を把握して判断」しており、「系統接続プロセスにおいて、工事費負担金契約締結・請求する段階まで進んでいる案件は蓋然性が高いと評価して、必ず個別計上する」、それ以前の段階でも工事内容の具体的な検討・補助金採択・プレスリリース等から蓋然性が高いと判断した案件は計上するとしています。個別計上値そのものも「一般送配電事業者への申込契約電力をベースに」算出されます。
つまり日本では、産業側が系統に並べた列そのものが、国の需要見通しの土台になっています。ただし、列に並べば計上されるのではありません。**工事費負担金契約の段階まで進んだかどうかで蓋然性が選別されています。**列に並ぶことと、列の中で前に進むことは、統計上も別に扱われています。
一般的な見方と、そこで見落とされること
支配的な説明はこうです。生成AIの普及でデータセンターの電力消費が急増し、発電容量と送電網の増強が追いつかない。だから電力が足りない。解決策は電源を増やし、送電線を敷き、効率を上げることである。
この説明は間違っていません。実際、Harvard Kennedy SchoolのBelfer Center(2026年2月)は米国の電力系統にとってAIデータセンターを分水嶺と位置づけていますし、電力需要が想定を超えて伸びていること自体は各国の公的見通しが示しています。
しかし、2026年6月から7月に制度側で実際に起きたことを並べると、争点が電力量そのものではないことが見えてきます。
FERCの命令は発電所を建てる命令ではありません。接続の申込をどう審査し、増強費用を誰に負わせ、併設電源と自家発電をどう扱うかという、手続と費用配分の命令です。バージニア州の課税も供給を増やす措置ではなく、大口需要から財源を取り、しかも自家発電による回避を塞ぐ設計になっています。日本の措置も、効率の下限を課しつつ、需要見通しを系統接続申込の状況とその進捗段階の判定から作っています。
不足しているのは電力量だけではありません。限られた接続を誰にどう配分するかを決める、制度の処理能力が不足しています。そしてこの待ち行列は、用途を区別しません。データセンターの接続申込と、電炉や電池工場の接続申込は、同じ系統の同じ列に並びます。
AI時代の電力制約は、発電容量の不足としてではなく、接続の配分制度の処理能力の不足として現れる。
重工業と産業構造への波及
ここから先は、確認できた事実から導く解釈です。
第一に、接続費用とリスクの帰属が明確化されると、接続は「申し込めば順番が来るもの」から「引き受けられる者が取るもの」に変わります。系統増強費用と工期リスクを負担できる主体が優先されるなら、資本力と信用力が接続の順位に反映されます。これは電力の話であると同時に、産業の参入条件の話です。
第二に、自家発電や併設電源による離脱は、制度が自家発電も課税・約款の対象に含めた時点で、完全な逃げ道ではなくなります。バージニア州は自家発電分も課税し、FERCはco-locationと自家発電を約款是正の対象分野に含めました。**「自前で電源を持てば系統の制度から自由になれる」という前提は、少なくともこの2つの事例では成立していません。**ただしこれは観測された2例からの推論であり、他州・他国が同じ設計を採るとは限りません。
第三に、重工業の設備投資計画にとって、律速要因が変わります。電炉、水素還元製鉄、化学、電池といった大口電力を要する設備は、建設期間よりも接続可能時期のほうが後になれば、その差が丸ごと資本の遊休期間になります。
生産能力ではなく、配分の処理能力
産業文明の能力は、しばしば生産能力として測られてきました。粗鋼生産量、発電設備容量、半導体の生産枚数。だが上に見た制度変更が示しているのは、生産能力とは別の能力です。すなわち、希少になった接続を、どの順番で、どの費用負担で、誰に配分するかを決める制度の処理能力です。
発電所は建てられます。送電線も敷けます。しかし「誰から先につなぐか」を決める手続は、技術ではなく制度の速度で動きます。FERCが60日の期限を切ったこと自体が、この制度の処理速度が問題として認識されたことを示しています。
これを「文明の運用能力」と呼ぶなら、その水準は抽象的な理念ではなく、接続待ちの列の長さと、その列の動かし方として観測できます。反証不能な文明論に留まらないためには、この観測可能性を手放さないことが条件になります。
伊但馬商事の仮説
**以下は伊但馬商事の仮説です。**確立した事実でも、業界の合意でもありません。
系統への接続は、電力調達の一手続きから、産業立地の実質的な許認可制度へ変質しつつある。今後、大口電力を要する産業の配置は「そこに電気があるか」ではなく「その列に並べるか、いつ順番が来るか、費用とリスクを引き受けられるか」で決まる。
ここでいう「許認可」は、法制度上の許認可そのものではありません。立地を実質的に可否する機能を果たすようになる、という機能的な等価性を指します。この点は後述の反論と直結します。
仮説を支える因果関係
- 接続に伴う系統増強費用とリスクの帰属が、需要家側へ明確化される
- 費用とリスクを引き受けられる主体が、実質的に列の前方を占める
- 接続枠が希少財として振る舞い始め、順位と条件を持つようになる
- 立地判断の支配的変数が、電力価格から接続可能時期へ移る
- 結果として、接続を配分する制度の設計が、産業の地理的配置を決める
最も強い反論
**反論1:これは移行期の渋滞にすぎない。**送電投資と分散電源が追いつけば待ち行列は解消し、接続は再びただの手続きに戻る。歴史的に、インフラのボトルネックは繰り返し解消されてきた。
**反論2:「許認可」は比喩の乱用である。**FERCは接続を拒否しているのではなく、費用負担の帰属を明確化しているにすぎない。費用を明確化することはむしろ手続の透明化であって、裁量的な許認可の反対物である。
これらの反論には、現時点で決定的な再反論がありません。特に反論2は、本稿の用語法が持つ弱点を正確に突いています。本稿は「機能的に許認可として働く」という限定でしか主張できません。
まだ不確かな点
- FERCのshow cause orderは命令であって最終規則ではありません。RTO/ISOの回答期限は2026年8月17日であり、最終的にどこまで統一ルール化されるかは未確定です。
- 日本の制度は効率規制が中心で、接続配分そのものの制度設計はまだ検討段階にあります。
- 主要データセンター集積地の接続待ち期間について数年単位という業界メディアの報告がありますが、独立した裏づけを確認できなかったため、本稿では数値を用いていません。
- 米国と日本の制度変更が同時期に具体化したことは観測であって、相互に連動しているという根拠はありません。また本稿は米日の2例を見ているにすぎません。ドイツでは2026年4月に接続容量の割当方式が先着順から成熟度基準へ変更されており、本稿が観測対象とした範囲は網羅的ではありません。
- OCCTOの最新の需要想定では、データセンター関連の個別計上値が2033年度まで前回想定を下回りました。接続の待ち行列は単調に伸びるものではなく、事業者側の計画見直しによって縮みうるということです。本稿の仮説は列が長いことを前提にしているため、この下方修正は仮説にとって不利な材料です。
- 「重工業の立地判断で接続可能時期が支配的変数になる」は仮説から導かれる予測であり、個別企業がそう判断したことを示す出典は現時点で確認していません。
仮説をどう確かめるか
反証条件
次のいずれかが起きた場合、本仮説は否定または大幅な修正を要します。
- 2028年末までに、主要RTO地域で大口需要の接続リードタイムが有意に短縮し、かつ大口製造業の新規立地決定において接続可能時期が判断要因として言及されなくなった場合
- FERCの手続の帰結として、費用とリスクの需要家帰属という原則が最終的に撤回または大幅に緩和された場合
- 自家発電・併設電源による離脱が制度的に容易な地域が拡大し、大口需要の相当部分が系統の待ち行列から実際に退出した場合
観測すべき指標
- RTO/ISO別の大口需要接続キューの滞留件数と平均リードタイム
- 接続契約で要求される信用補完・前払・違約金の水準
- 日本の系統接続申込から運転開始までのリードタイム
- データセンターへの電力課税を導入する州・自治体の数と税率
- 重工業の立地発表における電力・接続条項の開示有無
- co-location・自家発電を選択する大口需要の比率
「接続権」は新語ではありません
本稿は当初、「接続権」(系統への接続順位が希少財として価格と順位を持つ状態)を新規概念の候補として置いていました。**先行用例を確認した結果、これは新語ではありません。**以下に既存の用法を示し、本稿の使い方との差分を明示します。
- **connection rights(接続権)は、学術・規制の領域で既に使われている用語です。**Pollitt, Duma, Mitchell & Covatariu「Managing Great Britain's electricity distribution connection queue: lessons from auction theory and a potential position trading system」(Utilities Policy、2025年)は、接続待ち行列の問題を「the initial (primary) allocation of connection rights」の設計問題として扱い、さらに「a secondary trading of connection rights to increase efficiency」を検討しています。本稿が「接続権」として述べた内容は、この文献が既に名づけ、オークション理論の枠組みで定式化しています。
- **接続容量を希少資源として名指す制度運用も、既にあります。**ドイツでは送電系統運用者が2026年4月1日から先着順に代えて成熟度に基づく割当手続(Reifegradverfahren)を導入しており、法律事務所Noerrの解説(2026年4月28日)は接続容量を「the scarce resource "grid connection capacity"」と呼び、接続予約の二次市場が既に成立していると述べています。
- 日本にも、系統利用に関する権利概念の先例があります。ただし内容は異なります。地域間連系線の利用は従来「先着優先」と「空おさえの禁止」を原則としていましたが、2018年10月に間接オークションへ移行し、2019年度から値差リスクのヘッジ手段として間接送電権が導入されました(日本卸電力取引所・資源エネルギー庁「間接送電権の制度・在り方等に関する検討会 とりまとめ」2025年3月)。間接送電権は地域間価格差に対する金銭的な権利であって、接続の順番に対する権利ではありません。
本稿の差分。既存の用法は主として発電側の接続待ち行列と、その割当効率の改善(オークション設計・順位の二次取引)を対象としています。本稿が見ているのは需要側の接続待ち行列であり、かつ関心は割当効率ではなく、その割当が産業立地の可否を実質的に決める機能を持ち始めた点にあります。したがって本稿は「接続権」を発明したのではなく、既存語を需要側・産業立地の文脈へ拡張して用いています。
なおドイツの2026年4月の制度変更は、本稿が「2026年6月から7月に具体化した」とした動きより早いものです。接続の割当方式の見直しは米日に限らず進行しており、本稿の観測範囲は網羅的ではありません。
意思決定者へ
設備投資の立地を検討するとき、「この地域の電力価格はいくらか」と問うより、「その系統の列に並べるか、工事費負担金契約まで進められるか、順番はいつ来るか」と問うほうが、可否は早く見えます。日本の需要想定が既にその進捗段階で蓋然性を選別している以上、この問いは統計の側からも裏づけられています。
伊但馬商事は産業の現場に入り、技術・設備・制約を「何ができるのか」という能力の単位に読み替えています。接続の順番は、いまその読み替えに最も強く効いている制約の一つです。この読み替えの考え方は、企業知能とは何かで整理しました。
よくある質問
発電所と送電線を増やせば、この問題は解決しないのですか
供給を増やすことは必要ですが、本稿が扱っている論点はそれとは別です。FERCが2026年6月に命じたのは電源の建設ではなく、接続申込の審査手続と費用負担の帰属を約款上どう定めるかの見直しです。設備が増えても、誰から先につなぐかを決める手続が遅ければ、個々の事業者にとっての待ち時間は短くなりません。ただし「移行期の渋滞にすぎない」という反論は依然として有効であり、本稿はそれを否定できていません。
日本と米国では何が違うのですか
現時点で制度の焦点が異なります。米国では接続手続と費用配分そのものが規制当局の是正対象になっており、州レベルでは課税も始まっています。日本で導入されたのは新設データセンターへの効率基準であり(制度案では2029年度以降の新設データセンターが稼働2年経過後にPUE1.3以下)、接続の配分ルール自体の制度設計は検討段階にあります。一方で、日本の需要想定(OCCTO)が系統接続申込の状況と工事費負担金契約の進捗を基礎に作られている点は、接続の列が政策の土台になっているという意味で共通しています。
データセンター以外の産業にも関係がありますか
関係します。FERCが示した大口需要の定義はおよそ50MW規模の商業・産業需要家であり、データセンターに限定されていません。電炉、水素還元製鉄、化学、電池といった大口電力を要する設備は、同じ枠組みの対象になりえます。ただし「なる」と言い切れないのは、この定義がFERCの提案であって、各RTO/ISOが自地域の別定義を採ることが認められているためです(SPPでは既に、より低い閾値の独自定義が受理されています)。また、これらの産業の立地判断が実際に接続可能時期を主因として動いたことを示す出典は、現時点で確認していません。この点は本稿の予測であって観測ではありません。
「接続権」とは何を指す言葉ですか
系統への接続順位が、希少財として実質的な価格と順位を持つようになった状態を指します。本稿の造語ではありません。英語の "connection rights" は接続待ち行列の割当設計を論じる学術文献で既に用いられており(Pollitt ほか、Utilities Policy、2025年)、その一次割当と二次取引が検討されています。日本の電力制度にも「間接送電権」という権利概念がありますが、こちらは地域間価格差に対する金銭的権利で、接続の順番に対する権利ではありません。本稿は既存語を、発電側ではなく需要側の待ち行列、かつ産業立地の可否を決める機能という文脈へ拡張して用いています。法律上の権利概念ではありません。
参考資料・出典
主張ごとに照合状態が異なるため、出典種別を区別して示します。
公的一次資料(原典を照合したもの)
- 電力広域的運営推進機関(OCCTO)「2026年度 全国及び供給区域ごとの需要想定」2026年1月21日公表。別添1「データセンター・半導体工場の新増設に伴う個別計上について」——需要想定の数値・作成手法・前回想定との差異の根拠
- 電力広域的運営推進機関(OCCTO)「2025年度 全国及び供給区域ごとの需要想定」2025年1月22日公表——前回版。47万kW/616万kW/30億kWh/440億kWh/715万kWの出所
- Commonwealth of Virginia、H.B. 30 (2026 Spec. Sess. I)、Item 3-5.24、2026年6月30日署名・2026年7月1日施行
- 資源エネルギー庁 省エネルギー課「データセンターの効率化に向けた制度面での対応」2025年6月9日 p.4——PUE数値の根拠(enecho.meti.go.jp のPDFは取得できず、東京都産業労働局サイトに掲載された同一資料で該当箇所を確認)
- 日本卸電力取引所・資源エネルギー庁「間接送電権の制度・在り方等に関する検討会 とりまとめ」2025年3月
公的一次資料(原文に到達できていないもの)
- Federal Energy Regulatory Commission、show cause orders、2026年6月18日、ドケットEL26-67-000〜EL26-72-000——**FERC原文は未照合です。**ferc.gov および eLibrary への自動アクセスはいずれも拒否されました。発出日、ドケットと各RTO/ISOの対応、5分野、期限、費用回収契約に関する記述は、以下に挙げる複数の独立した解説の一致に依っています。なお二次解説の間では、大口需要の閾値表記(50MW以上か超か、69kV以上か超か)と、30日・45日の期限を暦日に換算した日付とに、なお差があります。
- 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部「省エネ・非化石転換法に基づくデータセンター業に係る措置のガイドライン」2026年4月10日策定——PDFへの自動アクセスが拒否され原文未照合。PUE数値の後続版にあたります。
法律事務所・研究機関による解説(二次情報)
- Orrick「FERC Show Cause Orders Signal Broad Reform to Large Load Interconnection Policies」2026年7月——5分野の内容、大口需要の定義、期限
- Rocky Mountain Institute「Understanding FERC's Large Load Orders」2026年——大口需要定義がFERCの提案であること、SPPの独自定義(high impact large load)の受理、費用回収契約における信用補完
- Troutman Pepper Locke (Washington Energy Report)、Foley & Lardner、White & Case、Morgan Lewis (Power & Pipes)、McGuireWoods、Day Pitney、Holland & Knight、Baker Botts、Bracewell、National Law Review——いずれも2026年6〜7月のFERC命令解説。発出日・ドケット・期限の相互照合に使用
- Williams Mullen「Virginia Budget Creates New Electricity Consumption Tax for Data Centers」2026年、Greenberg Traurig「Virginia Legislature Approves Tax on Data Center Electricity Consumption」2026年6月
- Noerr「New rules for allocation of the scarce resource "grid connection capacity"」2026年4月28日——ドイツのReifegradverfahren
- Belfer Center for Science and International Affairs, Harvard Kennedy School「AI, Data Centers, and the U.S. Electric Grid: A Watershed Moment」2026年2月
- World Economic Forum「Is power grid connectivity the strategic bottleneck for AI?」2026年5月18日
査読済み学術論文
- Pollitt, M.G., Duma, D., Mitchell, R., Covatariu, A.「Managing Great Britain's electricity distribution connection queue: lessons from auction theory and a potential position trading system」Utilities Policy、2025年、DOI: 10.1016/j.jup.2025.102099——「接続権(connection rights)」の先行用例